俺のルーティンは毎朝のショートツーリング。ほとんど人のいない道の駅に出向いては、ただだっぴろい駐車場で缶コーヒーを飲む。そんなささやかな幸せの時間に割り込んできたのは、ひとりの若い女だった。
オートバイ2021年11月号(第87巻 第15号)「Blue'n' Boogie」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部

毎朝のルーティンを愉しむバイク乗り

多くのバイク乗りに訊いてみたなら、朝早い時間にひとり走るほど気持ちいいことはない、ってことに賛同してくれるはずさ。まあ、忙しいとか家族がうるさいとか酒飲みすぎて朝早く起きれねぇとかいろんなエクスキューズも聞かされるだろうけどな。

どシングル、しかも下戸の俺にはそんな御託は関係ねー。いつだって早起きして、愛車のスポスタ(ハーレーダビッドソン スポーツスター)にまたがる幸せを噛みしめるのさ。

最近の俺のお気に入りは、朝焼けと共に走り出して、人もまばらな道の駅に向かっては、広い駐車場にスポスタを停めて缶コーヒーを飲むことだ。それだけで日々蓄積されるわけのわからない疲労はとれるし、凝り固まったカラダもほぐれてくるのさ。

画像1: 毎朝のルーティンを愉しむバイク乗り
画像2: 毎朝のルーティンを愉しむバイク乗り

男のささやかな時間に割り込んできたのは女

ところが、ある日 唐突にやってきたひとりのライダーによって、そんな俺の愉悦の時間に雑音が入るようになった。

画像1: 男のささやかな時間に割り込んできたのは女

やってきたのは、ひとりの若い女だった。
広い駐車場なのに、俺のそばに停めてきたのは、話し相手が欲しかったのだろう。1人になりたくてここまでやってきた俺とは趣が違う。

女も騒々しい空間から逃げてきたのは間違いないだろうが、さりとて まったくの孤独は求めてない、そんなところだったのだろう。

「よく来るんですかあココ」と女は俺に話しかけてきた。

はあ、と俺は全力で話しかけて欲しくないオーラを全身から滲ませようとやる気のない返事をしたが、女はそんな俺の態度は意にも介さず、言葉をつづけたのだった。
「ホント男のヒトって浮気しますよねェ‼︎」

画像2: 男のささやかな時間に割り込んできたのは女

男のヒトって、浮気しますよね?

ここまで来るまでの間、女の頭の中ではこのセリフがグルグル回っていたのだろうが、その言葉を投げつけられた俺にとってはあまりに唐突だった。

オトコって‥‥俺は戸惑いながら聞き返した。「男ぜんぶなの?」

「全部じゃないけど、ほとんど!」女はやはり俺の戸惑いを無視して言い切った。

画像: 男のヒトって、浮気しますよね?

男のヒトって浮気するもんですよね?

俺は絶対しない!って、ほんとに?

  • 愛した相手がいれば絶対に他にいったりしない。一途なもんさ

    嘘ばっかり(ほんとに?)

  • 浮気っていうか、いろんな相手と関係は持ちたいもんだよ、サガだよ。

    まあそうですよね。言い訳にはなりませんが。あと、相手にされても怒っちゃダメですよ?

  • 基本はしないけど、ワンチャンあれば、それはね‥

    絶好の機会、待ってるんじゃないんです?

  • 愛した相手がいれば絶対に他にいったりしない。一途なもんさ
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  • 浮気っていうか、いろんな相手と関係は持ちたいもんだよ、サガだよ。
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  • 基本はしないけど、ワンチャンあれば、それはね‥
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ホンモノの男ならば、女の期待を裏切ったりしないもんさ

その日から女はほぼ毎日同じ時間にやってきては、浮気癖のひどい旦那?の愚痴を俺にこぼすようになった。

俺の静かな楽しみは終わりを告げ、女の愚痴を聞くためだけにバイクを走らせてこんなところまでやってくる間抜けな男の習慣に成り下がっていた。
来なきゃいいって?そんなことしたら、彼女ががっかりするだろう?俺にそんなつれない真似をさせようってのかい?

下心だろうって?あわよくば据え膳食ってやろうと考えてたんだろうって?
いやいや、俺にそんなつもりは全くなかった。いや、ほんとさ。

その証拠に「温泉でも一緒に行かない?」と女が言ってきたときも、俺はほぼ即座に断った。

女もまた、それをがっかりするような素振りはなかった。彼女は単に、黙って愚痴を聞いてくれる相手が欲しかっただけなんだろうと思う。そして、その期待を裏切ることなく、聞き続けたのが俺だった、ということなのさ。

画像1: ホンモノの男ならば、女の期待を裏切ったりしないもんさ
画像2: ホンモノの男ならば、女の期待を裏切ったりしないもんさ
画像: 男と女は違うってことさ〜東本昌平先生 RIDE 「Blue'n' Boogie」より

楠 雅彦|Masahiko Kusunoki
湖のようにラグジュアリーなライフスタイル、風のように自由なワークスタイルに憧れるフリーランスライター。ここ数年の夢はマチュピチュで暮らすこと。

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