年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ観るべき または観なくてもいい?映画作品を紹介。
成功を求めてアメリカに渡った韓国人家族の、貧しくも温かい移民生活を描いた作品。
日本人移民に置き換えると、そのまま是永監督作品になりそうな、劇的とは言い難い些細な事件に一喜一憂する家族を描いた“非常に日常的な波瀾万丈”な映画だ。

裕福になりたい!と願って米国に渡ってきた韓国人移民の家族

本作のタイトル『ミナリ』とは、韓国セリのこと。わりとどこでも育つ、強い生命力を持つ。

本作は、ヒヨコの雌雄選別で生計を立てる貧しい韓国人家族が、一発逆転を目指してアメリカに移民してくる話だ。韓国野菜の栽培で成功を夢みる夫、貧しくても安定した暮らしを望む妻、姉弟の2人の子供、家族の手助けにやってきた妻の母親=祖母が、異国の地で韓国人としての生活を送る。

本作では、人種差別のような異国ゆえの外的圧迫は少なく、そのせいか 実に淡々と話が進む。家族を追い込むのは ひとえに貧しさという現実だけだ。
それゆえに夫は、アメリカに棲む韓国人たちに韓国野菜を安価で提供するビジネスに勝機を見出し、必死に働く。彼は家族を守る責務を果たそうとすると同時に、男として生まれた以上、出世しなければならないという想いに駆られている。

妻は頑張る夫を頼もしく思い、支えようとするが、その意欲の中に、一家の大黒柱としての責任のためだけでなく、男の野心のようなものを感じて、ひどく不安にもなる。家族のためだけではなく、この人は自分のために成功を夢見ている。家族のことなど本当はどうでもいいのではないか?という疑心に駆られるのである。

そんな中、助けにきたはずの祖母が倒れてしまう。

僅かな気持ちのすれ違いが生む細波に翻弄され、都度試される家族の絆を描く、日本であれば是永和裕監督の作品を観ているかのような映画だ。

特殊な文化背景によってコンテンツを作る必要のない普遍性

本作は、あり得ない不運で挫折する夫の試みを、祖母が植えたミナリ(セリ)が救う、という話だ。
ネタバレのような気もしないでもないが、あらすじを知っていたところで、そもそも本作はストーリーで楽しむ映画ではないから関係ないと思う。

こと細かく説明を受けたところで、映画そのものを丹念に観なければ、その意図するところを受け止めることはできないと思うのだ。

韓国人の特殊な文化を説明するのでもなく、日本人家族ででも、むしろ白人家族にででも置き換えても成立させられると思われる普遍的な味わいを持つ映画。そんな作り方を既に韓国は始めているし世界に通じるようになっている。『ミナリ』は、祖母役のユン・ヨジョンがアカデミー助演女優賞を取得したそうだが、前年に作品賞などに輝いた『パラサイト』に比べると、本当に淡々とした作品で、韓国ならではの文化的な色合いもないし殺人などの衝撃的な味付けもない。逆に言えば、そういう作り方で勝負できるようになり、白人社会がそれを認め始めたということは、やはりK-コンテンツの質的向上が著しいという証左なのだと思わざるをえない。

そもそも、日本と異なり、韓国はキリスト教(やや土着化しているが)の信者が多い(関係ないが車も右側通行だ)という文化的に欧米寄りなお国柄ということもあって、独自の文化が強すぎる日本よりも 欧米からの影響が簡単に染み込みやすいのかもしれない。となると、一回抜かれると一気に差を広げられてしまうという恐れを抱かざるをえないのである。

画像: 『ミナリ』韓国映画版の是永監督作品?

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

This article is a sponsored article by
''.