年間100本以上の映画を鑑賞する筆者が独自視点で今からでも・今だからこそ観るべき または観なくてもいい?映画作品を紹介。
柳楽優弥が主人公の北野武役を熱演、その師匠役に大泉洋。脚本・監督を劇団ひとりが担当した、笑って泣ける一本。

本人か?と思うほどビートたけしになりきった柳楽優弥の姿に感動

主役のビートたけしを演じるのは、柳楽優弥。若い頃のたけしはその演技力で、老いて現在?のたけしの姿は特殊メイクと、モノマネタレントの松村邦洋の声を借りて成り切っている。

チック症の影響や独特の立ち姿など、若い頃のたけしの所作には真似しやすい特徴が多いが、それでも柳楽優弥はそれらに頼り切ることなく、たけし像を見事に再現している。やはり良い役者なのだろう。

そして、たけしの師匠(だけでなくコント55号や東八郎などもその弟子だったらしい)として登場する深見千三郎を演じたのは大泉洋。たけしとツービートに輝きを与えた、その粋な姿を見事に表現している。

ちなみに脚本と監督は劇団ひとり。彼もまた、その才能の広さをふんだんに証明したといえるだろう。

笑われんじゃねえ、笑わせるんだ

大泉洋演じる深見は、浅草でストリップ小屋「フランス座」の経営者であり、合間に行うコントに自ら出演する芸人だった。テレビを嫌い、浅草での活躍に終始したおかげで、浅草界隈でしか知名度がなく、活躍した時代がビデオ普及期前のため、そのコントや芸がどのようなものだったのかほとんど記録がないらしい。

その人となりは、主に弟子であるたけしらの記憶によって知られるのみだが、本作においては 限りなく粋でダンディズム溢れる古き良き時代の“気風の良い男”として描かれている。

自らは食えないくらい貧窮していても、常に見てくれに気を遣い、いわゆる“武士は食わねど高楊枝”を貫き通している。普段は厳しい師匠として振る舞うが、生計を立てられない弟子たちにたびたび酒や夕食を奢るうえ、酌などさせず、ひたすら飲み食いに集中するよう仕向ける優しい一面を備えていたという。

本作において、深見が発する言動で感銘を受けたのは以下の2つだ。

「笑われんじゃねえ、笑わせんだ」

彼は芸人であることに誇りを持っていた。客が笑ってなんぼ、ではなく、なぜ笑っているか、その理由にこそ自分達のアイデンティティがある、と彼は考えたのである。道化師はある意味 周囲から嘲笑されてでも笑いを得ようとするものだが、深みにとっての芸人とは、嘲笑や苦笑を煽るものではなく自分達の芸で笑わせることができる存在でなければならない。この気概は、次の言葉からも窺い知れる。

芸人は普段はカッコいいんだと思われなければならない、だから金がなくても普段着にこそ金をかけて良い服を着ろ!

舞台の上でどんな惨めな役を演じようとそれは客を笑わせるための芸事。舞台以外の場所では いつどこで誰かに見られても問題ないように、そして、芸人でカッコいいなあと思ってもらえなければならない、と深見はたけしらに教えた。そのためにいい服を着ろと。

深見にとって芸人とは、芸で人を笑わせるべきであり、その存在自体が人から笑われるようなものではあってはならない、というプライドを持つべき存在だったのだ。
そんな誇り高き男を大泉洋は見事に演じ、その生き様に確かな説得力を与えている。

時代と共に消えゆく文化に操を立てた信念ある男と、新しい時代の先頭に立つ覚悟を決めた男の対比

ストリップ小屋という文化が廃れ、消え去っていく時代の流れに必死に抗う人々。笑いの主役がコントから漫才に移り、さらにその舞台がストリップ小屋のような劇場からテレビへと移り変わっていく時代の変化にすり潰されていく人々。深見千三郎はその筆頭であった。

深見の弟子の多くは早くに浅草を見限り、テレビスターへの道を切り拓いたわけだが、深見自身は古き良き時代にしがみつき、新しい時代に適合することなく、消え去っていった。
柳楽優弥演じるビートたけしは、その変化の中でさらに時代の先頭を走ることを選び、新しい領域を作り上げた。

この対比はある意味、幕末の騒乱期に見られた武士の世界に殉じた者たち(例えば土方歳三)と、開国して日本を新しい時代に合わせようとした者たち(例えば坂本龍馬)との相違にも似た、哀しくも美しい相克であるように思う。

画像: Netflix 『浅草キッド』
笑われんじゃねえぞ、笑わせるんだ。

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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