謎の毒霧に侵されていくパリに取り残された親子のサバイバル
唐突にパリの街を覆い尽くした薄茶色い霧は、吸ったら人間だろうと犬だろう鳥だろうと即死させる毒性を持つ。
どこからきて、誰が撒いたものかなどは全くわからないまま、パリは死の街と化していく。
主人公の夫婦は、治療法の見つかっていない多機能不全の病のために特殊なカプセル内でしか生きられない娘を抱えながら、前触れなく襲ってきたこの毒霧の蔓延に、致死を予期しながらもなんとか生き抜こうと奮闘するが・・・。
本作は、タイトルでも書いたように、スティーブン・キング原作のホラー『ミスト』)とは別物。非常に紛らわしいタイトルだし、内容的にも若干被る、完全なるB級映画だが、その設定の甘さやところどころ散見するリアリティの破綻はあるものの、スリリングさを保ち続けることには成功しており、観る者に最後まで席を立たせることはないだろう。
東南アジアのヘイズ問題を彷彿させる
謎の毒霧は、吸ってしまえば基本的に死ぬ。死なない者も多少いる(人もそうだし、犬が割合生き残っているが、登場人物たちはその理由や要因に触れることはない)。
本作において、この霧の正体や、意味するところを深掘りするような展開や伏線はなく、89分という短めの上映時間はひたすら娘を救い出したい一心で命を張る夫婦の行動描写にかけられている。
この霧は、吸い込む者を死に至らしめるが、触れても平気だし目や肌から入り込むこともない。また、ウイルスや細菌でもなさそうなので感染することもない。吸い込まなければ大丈夫なのである。(もちろん長時間この霧にさらされた場合にも、鼻や口以外から体内に入り込む可能性がないかどうかはわからないが)
また、この毒霧は、霧というより煙であり、その存在が目に見える。通常の空気より重めなので地表近くに滞留し、人々は毒霧を避けてマンションやアパートの高層階に避難する。
家の中に閉じ込められ外出できない、という意味では現在のCOVID-19(新型コロナウイルス)による影響を彷彿させるものの、感染リスクはなく、どちらかといえばヘイズによる煙害を思い起こさせる。
【東南アジアのヘイズ問題】
インドネシアを中心とする東南アジアでは、熱帯雨林の火災や泥炭火災の煙が大規模な煙霧となって周辺国にまで広がる越境大気汚染問題が1980年代から発生し、年々深刻化している。
本作は繰り返すがかなりのB級映画で、上手に作ってあるとはいえ低予算感は否めないし、恐らくは環境破壊問題に対するアンチテーゼとしての作品とは思うが、例えば『コンテイジョン』ほどのリアルさも深いメッセージもない。
だから、いま見たからといって、我々の現状と照らし合わせることなく、ただ89分をそれなりに有意義に過ごせる価値を素直に堪能してほしい一本だ。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。