21世紀初頭、9.11事件をはじめとする同時多発テロへの関与と、大量破壊兵器を保有しているという疑惑をかけられたイラクのフセイン政権は、米国軍の侵攻を受けて あっという間に転覆してしまう。
米国の各メディアや世論はイラク(および北朝鮮とイラン)を“悪の枢軸”と呼ぶブッシュ政権に同調したが、弱小通信社のナイト・リッダー社は、イラクの大量破壊兵器の保持やテロへの関与の証拠はないとして、ブッシュ政権が恣意的に戦争をしたがっていると訴えたが、彼らの主張に耳を傾ける者は少なかった・・・。
ロブ・ライナー監督による、民主主義におけるジャーナリズムとは何かを問う、社会派ドラマ。
画像: 『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』予告編 youtu.be

『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』予告編

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社会正義の捏造に抵抗した者たちへの挽歌

サブタイトル(オリジナルでは原題)となっている“衝撃と畏怖(Shock and Aw)”とは、2003年3月20日に開始したイラク攻撃の作戦名である。
イラク共和国に君臨していたサダム・フセイン政権は、米軍の猛攻を受けあっけなく崩壊し、フセイン大統領自身も逃亡したもののあえなく逮捕され、のちに処刑された。

フセイン自身はまさか本当に米国がイラクに戦争を仕掛けると思っていなかったらしいが、ブッシュ政権は巧みに国際世論を味方につけ、イラク侵攻を実行した。9.11事件の首謀者とされる、ビンラディン率いるアルカイダを支援し、大量破壊兵器を隠し持っていたという嫌疑をかけられたイラクだが、実際にはフセインはビンラディンを毛嫌いしていたらしいし、侵攻後も大量破壊兵器保持の証拠も全く出てこなかった。
要はブッシュ政権のでっち上げであったという結論になるのだろうが、今に至ってもその事実をブッシュ自身や当時の政権の中枢にいたラムズフェルド元国務長官らが糾弾されることは少ない。そして、侵攻作戦が実行された当時にあっては、彼らの主張が間違っている、もしくは 断定するにはまだ早いとして冷静な制止を試みる者は非国民または民主主義の敵であるかのように詰られたのだった。
本作は、そんな“同調圧力”に屈することを拒み、大手メディアが次々と権力の言いなりになる中で、最後まで真実を追い求めた弱小通信社ナイト・リッダーの記者たちの孤高の戦いを描いている。

ちなみにナイト・リッダー ワシントン支局のジョン・ウォルコット支局長を演じているのは、ロブ・ライナー監督自身。ブッシュ政権の嘘を暴くために奮闘する記者たちを、トミー・リー・ジョーンズやウディ・ハレルソン、ジェームズ・マースデンらが熱演。さらに、彼らを支えるパートナーらをミラ・ジョヴォヴィッチ、ジェシカ・ビールが配されている。

ジャーナリズムを守ることと、正しく経営することは必ずしも同じではない

本作は、権力の監視者としてのジャーナリズムの在り方を描いているが、実際には真実を追い求め、最後まで信念に従った者たちが報われることはないという苦い現実を思い知らされる内容になっている。同じように権力に立ち向かった記者たちの“勝利”を描いた作品とは一線を画していると言える点だ。

ちなみに、本作で権力に阿らずに戦いを挑んだ通信社ナイト・リッダー社は2006年にマクラッチー社に買収され、さらにそのマクラッチー社も2020年に経営破綻しているので、政権に楯突いた胆力や信念が報われることはなかったと言えるだろう。もちろんメディアがネット化・デジタル化していく時流に乗り切れなかったためかもしれないし、政治に楯突いた代償だったのかもしれないが、真相はわからないし、どちらにしても敗者に何かを語る機会は与えられることはない。
(本作で活躍した記者たちのその後は寡聞にして僕は知らない)

結局のところ、ジャーナリズムといえども経営目線で見れば所詮ビジネスであり、会社として存続しなければ、それは単なる敗北に過ぎない。
金を儲けて(記者を含む)社員の暮らしを支えなければならないということと、社会の公器として真のジャーナリズムの旗手として毅然とすることは必ずしも一致しないという苦い真実を受け入れざるを得ないのが、本作を見た感想である。

画像: 『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』ラブコメ映画の代名詞的監督ロブ・ライナーが描くジャーナリズムのあり方とは

小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。

ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。

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