休暇が一転、万事休すに?
主人公のベケットは、弱度の鬱病を患うコンピューターエンジニア。恋人のエイプリルとともに休暇で訪れたギリシアで車の事故を起こして負傷する。
ところが、この事故を契機に、ベケットは謎の殺し屋や警察官に命を狙われ始める。わけがわからないベケットは必死に逃げ惑いながら、身の安全を確保するためにアテネの米国大使館を目指すが・・・。
誰に なんの理由で命を狙われるのかまったくわからずに逃亡する恐怖を描いたホラーサスペンス。
英語くらいは話せるようになっておこうと心に誓う映画
主人公のベケットを演じるのは、クリストファー・ノーラン監督の「テネット」で世界を救う男を演じたジョン・デヴィッド・ワシントン。今回は謎の組織から命を狙われて逃げ惑う不幸な男を演じている。
そもそも車で事故を起こしてしまうこと自体、まさしく偶然の不幸な事件なのだが、この偶然が更なる不運を呼び込んでしまうという設定。ほとんど言葉が通じない異国での不運に翻弄される男の、無様な慌てぶりをジョン・デヴィッド・ワシントンは上手に表現しており、まずは合格点を与えられるだろうと思う。
この映画を観てまず思うことは、意思疎通できる程度のコミュニケーション能力って大事だな、ということ。ベケットはギリシアという異国で なかなか容易に人々に自分の窮状を訴え共感してもらうことができず、余計に苦しむことになる。彼はまだ米国人であることが幸いして、なんとか英語を解する人々に巡り会うことができるのだが、これはまさしく不幸中の幸い。例えば、日本語しかできないとか、世界的に見てマイナーな国の言葉しか話せなかったら、完全に詰んでいる。
全ての渡航先の言葉を習得するのは無理だとしても、片言くらいは使えるようにしておくか、あとはせめて英語は使えるようにしておくことが重要だとつくづく思う映画だった。
自分が所属する国の国力を強めなきゃと思わされる一本
主人公は必死に事態に抗って米国大使館を目指すのだが(彼は自分のアイデンティティを示すためにパスポートは携帯していた)、さまざまな障害が彼を待ち受ける。
本作の正しい観方とは違うと思うのだが、いざというときに自分を救う力を持つ国家(や家族)を背景に持つことは、やはり重要だな、と思わせる映画なのだ、本作は。例えば僕は日本国民だが、国力が落ちてきているとはいえ、日本人であること、そして日本のパスポートを持っていることは、相対的にみれば世界において なんらかの事件に巻き込まれたときの安全の担保があると思える。主人公は急な不運に巻き込まれるが、米国市民であるという、最後の砦というか、最低限の命の保障となる“幸運”を持っていたと言える。これが誰も知らないような小国の国民であったら、見知らぬ外国で非常なる災厄に巻き込まれたときになんの希望ももてないだろうな、と思うのである。
その意味で、本作は それなりに強く存在感のある国に生まれるかどうかという幸運を得ているかどうかを強く意識させられる作品であるといえる。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。