エロスに生きた実在の2人の伝説を、山田孝之x森田望智が潔く演じている話題作。
石橋凌が村西と対立する業界最大手AVメーカーの社長、リリー・フランキーが村西を追い回す汚職刑事、ピエール瀧がやり手のビデオレンタル業者を演じているものも見どころ。
その他、村西をエロの世界に引き込む重要な役どころを満島真之介、村西が立ち上げたAVメーカーの社長兼財務担当を玉山鉄二、彼らと深く関わるヤクザを國村隼が配役される豪華さだ。
そんなとき、当時世間に出回り始めたビニ本(ビニールで開封できないようにされたエロ本。それ自体は合法)に出会い、その可能性に目をつけた彼はエロスを売る業界へと身を投じる。
その後、裏本(無修正のビニ本。非合法)に手を染めた彼は逮捕されるが、出所後は1980年代の終わりに台頭し始めていたアダルトビデオ(AV)業界に進出し、やがて彼の半生に大きな影響を与えることになる女性、黒木香と巡り合う。
山田孝之という人気俳優が、一般的にはいかがわしさを纏うAV監督を演じるということで、配信前から多くの話題を集めた本作だが、キワモノではなく、社会の既成概念の破壊に挑む挑戦者の姿を丹念に描いている。
AV業界の話であることを除けば、既存の社会常識の打破に挑んだ男女の挑戦劇として楽しめる一流の作品
本作は『全裸監督』という出色のタイトルや、テーマが抱える猥雑な印象のために、世間的には色眼鏡で見られることは、どうにも避けられなさそうな作品だ。
しかし、本作からエロの要素を巧みに取り除けば(成人向けの作品として配信されているように、男女の営みの模様が当たり前の描写として頻繁に登場する)、さまざまな社会常識や固定観念、業界の圧力などに屈することを拒否して、自分の信念を貫きクリエイターとしての矜持を守りとおした一個の挑戦者の戦いを描いた青春物語として見ることができるのだ。
しかし、村西とおるの戦いは決して孤独ではない。彼を目の敵にするライバルメーカーや警察の圧力に膝を折ることを拒否する彼を、仲間たちが必死に支える。会社経営者なら涙を堪えたくなるシーンでいっぱいになるはずだ。
そして、男の立場で人間のエロスの解放を目指しているのが村西とおるなら、女の立場で性の伝道師として、さながら“女性版村西とおる”として見事なコントラストを見せる存在が、黒木香(森田望智)。
横浜国大(作中では横浜国際大)在学中の才女ながら、腋毛を伸ばしっぱなしにしたうえで、テレビ番組内でも堂々と性行為の悦びやそのあり方を口にする奔放さをみせて、村西とおるの挑戦を肯定する。
(作中、村西とおるは真のエロを表現する方法として、恥じらいと大胆な仕草のコントラストが大事だと繰り返している)
この2人の運命的な出会いとコンビネーション、その結果生まれる上質な化学反応が本作の最大の見どころであり、それが世間の疎ましさや軋轢を溶解させる成果を得たところでシーズン1は終わる。
実在の人物を描いているだけに、シーズン2(もしくはその続編もあるか?)で訪れるだろう破綻や失落の予感に慄きつつも、一刻も早く、続きを見たい。
例え勝てなくても、挑戦者の美学は成立するし、見る者の心を震わせることができる。いきり立つのは何も逸物だけではないのである。
小川 浩 | hiro ogawa
株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。dino.network発行人。
マレーシア、シンガポール、香港など東南アジアを舞台に起業後、一貫して先進的なインターネットビジネスの開発を手がけ、現在に至る。
ヴィジョナリー として『アップルとグーグル』『Web2.0Book』『仕事で使える!Facebook超入門』『ソーシャルメディアマーケティング』『ソーシャルメディア維新』(オガワカズヒロ共著)など20冊を超える著書あり。