思ってもみなかった状況に苦しみ悩む男の決断とは?
オートバイ2022年5月号(第88巻 第5号)「Lights」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部
どうにもならない環境悪化に行き詰まる経営
誰のせいにもできない。ウイルス感染が怖くてなかなか旅行ができない昨今だ。
私がいくつか経営している旅行代理店も、3年にわたるコロナ禍ですっかり立ち行かなくなってしまった。愛するバイクも手放さなければならないだろう。
その前に走り納めをしておこう。私はあてもなく、ひとりツーリングに出かけた。
迷ってばかりの自分に苛立つ
気ままによく知る道を走るつもりが、ちょっと遠出をしてみたら、高速のリニューアル工事の通行止めで、予期せぬ迂回をさせられた私は、すっかり道に迷ってしまった。
人生に迷い、道に迷い、私は迂闊にも迷わされ過ぎだ。まだ昼だっていうのに、ここはどこだ?
思いもかけずにみた景色に心を決める
しょうがない、ここは前に進む他なかろう。私は知らない道をとにかく前に進むことにした。
狭い林道に迷い込んだが、とにかく道は舗装されているから行き詰まることはないだろう、少しヤケになっていたのか、私はそうたかを括ってバイクを走らせた。
すると、ほどなくして、突然道がひらけて恐ろしく景色の良い場所に至った。
富士山と、その横に燦然と光を放つ太陽がのぞいたのだ。おっ、と私は思わずバイクを停めた。
その輝きを見た時、なぜか私の迷いは消えた(道に迷っていることは変わりないが)。バイクも会社も手放さなきゃならないならそうしよう。がんばって取り戻せばいいだけだ。
私の心は決まった。
人生は、とにかく前に進む他ない、後戻りもできないし、リセットしてやり直しもできない。傷を負ったら、それが癒えるまで耐えるしかない。できることは早く治してもう一度立ち上がることだけだ。そうさ、また立ち上がればいいんだ。
私は、街の灯りを目指して走り始めた。
楠雅彦 | Masahiko Kusunoki
車と女性と映画が好きなフリーランサー。
Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。蚊に刺されまくっても行きたい。