※本連載はMotor Magazine誌の取材余話です。
はじめに。さながら大空を滑空するグライダーの如く。
公式発表によれば、「R8」のインターフェイスのモチーフは、F1マシンのコクピットだという。けれど個人的な第一印象は、グライダーのコクピットをイメージさせるものだった。
お断りしておくと、頭にフレッドがつくアステアではない。「バンド・ワゴン」は大好きだけれど、歌ったり踊ったりする彼とは別人だ。
こちらの「アステア」は、空を飛ぶための複座のグライダー。正式名称は「Grov G 103 Twin Astir Ⅱ」というらしい。
R8のドライバーズシートに腰をかけた瞬間、学生時代に乗っていたその「アステア」のイメージが強烈に脳裏に蘇ってきた。
40年近く前の体験を回想するきっかけは、小ぶりなバイザーがついたメーターナセルから、ドライバーを包み込むように左右対象に広がるシェルのようなデザインアレンジだ。
クルマとドライバーの一体感を見事に増幅してくれるそのタイト感はどこか、学生時代に大好きだった「アステア」に通ずるものがあったのだ。
そういえばエクステリアデザインにも、そこはかとなく共通する要素があるような気がしてきた。
アステアは、前後タンデムの複座機としては比較的コンパクトなボディに長めの主翼を持っていた。引き締まったサイズ感の中にあっても流麗な曲線美の持ち主だったように記憶している。たたずまいは実に可憐で、大空を滑空するさまはとても優美だった。
そんな「凝縮感」が発散するある種のフェロモンもまた、R8とアステアの類似性を感じさせるポイントのひとつだ。
R8の全長は4430mmと、600ps超のスーパースポーツとしては比較的コンパクト。デザインの方向性そのものは、シンプルisビューティフルなアステアとは正反対で、実に雄弁なアレンジが施されている。
エッジの効いたアグレッシブなラインどりや面づかいが、これでもか!と言わんばかりの先鋭性を強烈にアピールする。
それでも間延び感のない「塊」としてのまとまり感やバランス感覚が、どこか似通っているように思えてならない。目指すスタイルトレンドこそ違えど、志のベクトルそのものはきっと近しいのだろう。