オートバイ2022年4月号(第88巻 第4号)「Unsteady」(東本昌平先生作)より
©東本昌平先生・モーターマガジン社 / デジタル編集:楠雅彦@dino.network編集部
誰が言ったよ、ZX-6Rが扱いやすいなんて。めっちゃ速えんだぜ!
俺は村上。まぁ普通のサラリーマンさ。
40過ぎて、子供の手も離れた頃にコロナだろ?
やることなくてどうしたもんかな、と思ってたら、小学校以来のマブダチがさ、バイクいいぞみたいな顔をするから、俺も勇んで大型免許をとってみたわけよ。
そしたら、これがとてつもなくいい。一人で乗ってる分にゃ感染症のリスクも全く無いしさ、いい歳こいて言うのもなんだけど、まあ夢中になっちまったわけよ。
すると、ダチも気持ちに飛び火したのかな、バイクを新しくしたっていうじゃないか、俺としちゃ軽い“勝負!”みたいな気分になったわけよ。
ダチが買ったのはスズキのリッターバイク、 GSX-R1000R。
俺のはオトコカワサキ(死語なの??)のZX-6R。最近じゃあ、600とか750ccとかはミドル扱いだけどよ、俺にとっちゃ400以上はれっきとした大型バイク。
そりゃちっとは気後れしたというか、今どきの本ちゃんの大型リッターバイクよりは乗りやすいかなと思ったことは思ったけどさ、それでも目がくらむくらいはえぇんだ、ZX-6Rはさ。
ところがダチの野郎、何度家に押しかけても居留守を使いやがる。一緒に走ってくれねえんだ。
なんだくそ、初心者と走んのはイヤだってか?それとも、俺のマシンにぶっちぎられるのがイヤだってのか?1000ccにだって負けやしねえぞ、俺のZX-6Rはよ。
たいしたことじゃないんだ、いやマジで
それは村上が免許をとって、数週間後のことだった。
私の妻がガレージに顔を見せてこう言った。「あなた、村上さんの奥さんから電話があったわよ」
「なんて?」なぜ本人でなく奥さん?私は若干の悪い予感を胸に抱きながら聞き返した。
「バイク壊しちゃったみたいですって」
やっぱり‥‥
「おいおい事故⁉︎」大したことなければいいが‥私は慄きながら尋ねた。
すると妻は、少し含み笑いをしながら「立ちゴケしちゃったみたいよ」と言ったのだった。
楠雅彦 | Masahiko Kusunoki
車と女性と映画が好きなフリーランサー。
Machu Picchu(マチュピチュ)に行くのが最近の夢。蚊に刺されまくっても行きたい。